今日は予算特別委員会。 3つの分科会で審査したものを持ち寄って…という位置づけの全体会です。 通常ならば、分科会座長からの座長報告がサクッと行われて、 各会派からの賛成/反対討論がサクッと行われて、採決。という流れになりますが 今年も例によって修正案が出されました。

どういう修正案かというと、端的に言うと再開発関連予算を削減するよというもの。 一般会計予算と都市再開発事業特別会計予算が対象です。

結果としては、賛成少数で修正案は否決され、原案が賛成多数で可決すべきものとされています。 例年の流れとは異なる意外な展開。自民党の一部が賛成に回ったという形でした。 彼らの考えについて僕が解説する義理はないので、触れません。 ただ、記者も来てましたから、記事になるような気がします。

今回、会派として予算に対する賛成討論もしていますが、 今日のところは再開発の修正案はやっぱおかしいよと思うところが強いので、その辺を書いておきたいと思います。 委員会で否決されている案なので、本会議で議題にあがることはないんですが…。

削減の内容について

本件、削減の金額とかはあまり重要ではないと思ってます。 一番重要であろうと思う提出された理由は以下のとおりです。

JR芦屋駅南地区再開発事業について、市の現状に見合った見直しを求め、適切 な見直しが行われるまでの間、再開発事業を一時停止するため、関係予算を減額するもの

「市の現状に見合った見直し」「適切な見直し」など、かなりファジー…というか ファジーな要素しかない内容になっているため質疑がたくさん飛んでました。 僕的には、毎年のことやし同じような答弁しかないやろ…と思ったので特に質疑はしてません。

計画が生きている状況での立ち止まりは、ほんま意味がない

予算が止まっていたとしても、県による事業認可など、計画は紛れもなく生きています。 計画凍結など、明確なストップはかけていない訳ですから、進捗状況を示せというと「進行中」になります。

計画が進行している関係で、時間の経過とともに色々なプラスアルファの費用が生じています。

人件費

本来であれば、JR南の再開発に一定の目途がついた時点で チームはいったん解散し、他の案件に回っています。他の案件に投じられるべきだったリソースが 投入されず、2年間、JRの再開発案件に注力せざるを得なかった状況は、トータルコストとしては 変わらないものの、機会損失としてはかなりのものが生じています。

金額にすると、令和2年度決算ベースで給与等だけの人件費だけで約8600万円。 事業費の規模感からするとそんなに大きなものでもないのかもしれませんが、 1円でも安くっていうのを求めているなら、この辺も考えたいところ。

再開発における2年間の延伸が、市の他の事業にも影響を及ぼしていると考えると、 やはり小さくない支出になります。特に、JR南の再開発案件には市職員のエース級を充てていることを考えると余計に。 ハイパフォーマンスの職員をいたずらに拘束してしまうのは良くないことです。

JRとの協定

かつてブログにも書きました。2020年7月15日。そんなに長いこと、この話をしていたんだな…。

ポイントは、再開発をやろうがやらまいが、JRに支払うお金があるということです。 これは両者で協定を交わしており、全会一致での議決も経ているものですから、今更覆せません。 内訳として、再開発関連の国庫補助で補填することを考えていたため、再開発をしないとなると 市負担額も大きくなります。

なお、「行政が倒産することも裏切ることもなかろう」という信用に基づいて、罰則規定は設けられていません。 「再開発をやらない」選択肢をした場合、賠償金等も発生して然るべき。これは仮定の話じゃなくてリスクマネジメントの話です。 しかも、かなり発生確率が高いと思しきリスクであり、絶対的に避けて通れない話。

修正案の提出者は、仮定の話は話せないと終始答弁されていました。 リスクマネジメントの話をしないで経営判断なんてできるわけないんですよ。 リスクマネジメントなしで事業の先行きを決めるなんて、失敗する未来しか見えないんですが。

用地の取得は止まらない

計画が生きているため、地権者からの買取り請求が出た場合、市としては断れません。 事実、再開発がひどい膠着状態に陥った後、その趣旨による用地取得は増えています。

予算を止めたとしても、総事業費のほとんどを占めている用地取得は粛々と進みます。 これでどうやって事業の方向転換をせよというのか。

用地取得したけど、使いませんとして遊休地にするか。換金したいから売却しまっせとするか。 いずれにせよ、都市計画法の趣旨に基づき、市が進める公共の益のために大切な個人資産を手放していただいています。 それを使わないで置いとくとか、使わないから転売して換金するとか、マジ詐欺です。

元々引っ越しによる売却を考えていた人も中にはいるかもしれませんが、 それでも、公定価格でしか買い取れない市に売るよりも民間に売る方が高く売れる可能性ははるかに高い。 いずれにせよ、市の事業に対する理解という前提があっての取引になっていることは言うまでもない訳です。

もし、修正案を出した人たちの言うように進めた場合、上述のように宙ぶらりんになる用地が残ってしまう。 地権者から何らかの訴訟を起こされても仕方がないと思います。金額は事業規模からすると、そこまでいかないかもしれないが 行政としての信頼は地に落ちます。それは市民だけじゃなく、JR西日本を初めとする市とかかわりのある企業からもです。 別にこの案件で全て終わる訳じゃないのに、それは痛すぎます。

交通課題の解消に再開発ビルはいらないじゃないか!という主張には賛同しかねる

地権者から用地を取得しないと始まらない事業

交通課題の根本原因は道路幅員や、バスの退避場所を確保できないこと。 これを解決するためには地権者からの用地取得は必須。

地権者の大事な個人資産を手放していただくわけですから、 地域に引き続き居住したいというニーズにも一定答える必要があります。 確かに再開発は地権者のためだけの事業ではなく、市民全体のための事業です。 ですが、そのために地権者の基本的人権たる居住移転の自由を無視しても良いっていうもんではない。

憲法順守が大原則である行政の計画で、みんなの益のためには一人の犠牲はやむを得ない。 という計画遂行は無理なんですよ。なので、地権者の意向に沿うために必要になるのが再開発ビルということです。

再開発ビルはいらん!というのは、地権者に「みんなの益のためやねん。はよ出てけ!」と宣告するようなもの。 地権者の居住移転の自由はどこに行ってしまうのか。誰かを犠牲にして得た幸福ってどうなんでしょうか。 それは議員は言うたらアカンでしょう。

例えば、公示価格以上のお金を支払いますから、それでリスクヘッジしてください というのなら、まだ検討の余地はあるとは思います。しかし、行政の計画ではそれはできません。

法律の立て付け上は強制的に収用することも可能ではあるんですが、 それはよほど悪質なケースにだけ適用されるのがベターです。

保留床を新たに創設し、売却益を事業費補填に充てるビジネススキーム

再開発ビルを建設することで保留床を生み出し、その売却益を以て事業費に充てるというのは 再開発事業のビジネススキームとして確立されている手法です。

更に、芦屋市の場合、特定建築者(デベロッパ)に所有権をゆだねる代わりに開発費用をデベロッパ持ちに する計画を策定しています。これは、結果的に市負担額を減らすことに繋がっています。 なるべく、市負担を軽減させようという努力の結果であると評価しています。

また、保留床の売却益は、当然ですが売れるのが前提です。 ただ、芦屋市はそっちのノウハウは全くありません。建築するビルについても 民間デベロッパが建てたものに比べると魅力に欠ける。マンション分譲の素人が建設して 素人が売却を進めて売れ残してしまうとそれが財政圧迫につながります。

芦屋市の計画だと、売却も全部デベロッパにぶん投げてしまうものになります。 仮に売れ残ってもデベロッパの損失であって芦屋市の損失にはなりません。 再開発というビジネススキームにおけるリスクを回避しているプランだとも言えます。

ビル自体の所有が芦屋市ではないですから、負の遺産にもなり得ません。 公共施設等総合管理計画において、公共施設の数を適正管理するということが謳われています。 民間のビルを使って公共施設を提供するという考え方は、公共施設の適正管理にも繋がると思います。

そもそも長い年月をかけてつくってきたプラン。見直しにも多大な時間を要する

計画は、芦屋市HPで書かれている経過のとおり、非常に長い年月をかけて じっくり策定してきているものです。一朝一夕ででつくったものではありません。 また、法的に必要な手続きを踏み、県の事業認可までこぎつけています。

軽微な変更ならまだしも、事業手法を変えるだとかの大きな変更の場合、 芦屋市がこれまで踏んできたプロセスを再度やり直すことになります。

当該地区は、年間20件ほどの交通事故が発生している危険なエリアです。 駅前という老若男女が集う非常に集客力のある通りにおいてこれは致命的。 特に、朝方は小学生も利用しています。停車している車の陰から飛び出したりするので 実はものすごくリスクを孕んでいます。

この状態をまた何十年も放置する。許されるわけがない。 そう言ってる間に交通事故が発生して人が死んだらどうするのか。 仮定の話じゃなくて、リスクの話。しかも、1000年に一度の災害の話ではなく 極めて現実的なリスクの話。

失ったお金はまた稼げばいいけど、失った人の命は一生戻らない。 もちろん、人間は神様じゃないので100%予防するというのは難しい。 でも、駅前という立地を考えると現状で最も安全であると思われる対策を講じるべきだろうと思います。 安かろう悪かろうでは困ります。

命にかかわるところのプライオリティは一番高いと僕は思っています。 安全に対するプランは、ベタープランではなくてベストプランで行ってほしい。 ちょっとケチったために、重大な事故に繋がるなんてことがあれば、それは行政の責任です。

「中止」の妥当性

一方で、ここまで進捗を上げているから止められないとは言いません。 確かに、中止あるいは中断せざるを得ないケースもあるとは思っています。 例えば、思いつく限りでは以下のケース。

  • 大規模災害等が発生し、復興等で多大な財源が必要になることが明白である場合
  • 事業実施にあたり、特に安全性などでクリティカルな問題があることが判明した場合

いずれにしても、共通しているのは誰しもが「まあ、そうよな」と思うシチュエーションであるということ。 芦屋の事業の場合、上記のいずれの条件も満たしていませんし、誰しもが「まあ、そうよな」と思うシチュエーションではないです。 間違いなく。

よく言われていたコロナ禍。確かに、先日の議員提出議案の折に説明させていただいたように 個別で見た場合、コロナによる減収に苦しんでおられる市民も少なくありません。

しかし、予算や決算を見る限り、マクロ的に見た芦屋市におけるコロナ禍の財政上の影響は軽微と言わざるを得ません。 ただ、これって、予想外!という展開ではなかったです。少なくとも、芦屋市の歳入構造や国や経済界の予想を見る限り 割と予測できていた展開です。個人的には、歳入を見たときに驚きはなかった。

前々から、コロナ禍と大災害を同列に扱うこと自体、ちょっとズレてる。 市民が困るという観点では同列かもしれないですが、発生後に生じる支出という観点では 災害には到底及びません。災害復興は本当にお金がかかる。

妥当性がある提案だとは思えない

もはや、進めるも止めるも同じぐらいにコストが生じる段階に来ています。 高いという理由だけでは止められないんです。止めても同じぐらい高くつくんだから。 同じ金額払って現状維持になるのなら、整備したほうが100倍マシ。

何度も何度も何度も思っていたことですが。 そういう話がしたいなら、何で、もっと早い段階で言ってくれなかったのか。 議決したときは、とくに反論もなく全会一致でスムーズに行きましたやん。

長期財政収支見込みも、今の任期の改選前の時点で危険水域、黄色信号点灯してましたやん。 選挙の時、誰も触れてませんでしたやん。何で黄色無視して赤信号で急に言い出すのか。

せめて、改選前の議会で条例が提案されたときにこの議論してくださいよと。 それなら、まだどうとでもできたんですよ。コスト的にも。なんで、色々とFIXされてから言い出すのか。言うのが遅すぎる。自分の家をさあ建築しようというときにそんなこと言いますか?

この2年間、芦屋市にとって有益な時間になっていたのでしょうか。 それなら、まあ良かったねってなるんですが、そうは思えないので、つらいところです。